イギリスのEU離脱にともなう知財への影響 

Publication July 2016

今から離脱までの少なくとも2年間強は今まで通り変更ありません。この期間を利用して、EU離脱後の知財の対策を検討する必要があります。

イギリスがEUから離脱を決めた国民投票の結果自体は法律的に拘束されません。いずれ成り立つ離脱に備え、今後イギリスを含むヨーロッパ全般にわたって権利化をする場合、欧州単位の権利(欧州連合商標権 (EU TM Right)、登録共同体意匠 (RCD、Registered Community Design Right)、共同体植物品種権(Community Plant Variety Right))の申請と共に相当権利をイギリスでも権利化する事を勧めます。この様な既存の欧州における権利は、SPC(Supplementary Protection Certificate)も含め離脱後も引き続きイギリスのカバーを維持出来る様に移行措置が定められると思われます。特許に関しては、EPOによる特許付与手続きは(EU離脱後も)今までどおりです。統一特許裁判所制度(UPC System)は少なくともかなりの遅延が予想されます。 

イギリスは先月末、国民投票によりEUから離脱する意志表明を受けて以来、経済的にも政治的にも不確かな状況にあります。この国民投票の結果のステータスは “アドヴァイス”であり、法律的な影響はありません。EU離脱の正式なプロセスはEU条約第50条に基づき、EU脱退の意思を欧州首脳理事会に通知します。この通知のタイミングも現在は不確かですが、その時点より2年間の期間内(加盟国全ての同意で延長も可能)で離脱協定を交渉し、正式に離脱が成立します。なお、離脱協定の交渉で合意が得られなかった場合、自動的に離脱が成されます。正式に離脱した時点で、イギリスでのEU法(例えば、EU TM Regulation, Community Design Right Regulation)の適用が失われます。 

その結果、これから少なくとも2年間は今までどおりの法律で活動をし続けられます。この期間を使い、EU離脱後の知財の対策を練る必要があります。

特許

EPO(EUの機関ではない)やイギリスの知財事務所による特許付与手続きは現在もEU離脱後も今までどおり行われます。EPOを通して得られた特許は特許付与後出願で指定された国各々の特許に至るので離脱をしても特許の効力に影響はありません。

UPCという新しい制度により、欧州25カ国(スペイン、ポーランド,クロワチアを除く)にわたって単一の訴訟で権利行使が来年5月頃出来る予定でしたが、そのUPCの導入はイギリスのEU離脱により不確かなものとなりました。UPCはEUの協定に基づくものでイギリスの離脱後のメンバーシップが問われています。可能性としては、イギリスを除いてUPCを発足させる、あるいは改めてイギリスが交渉してEU非加盟国としてUPC制度に参加する、等がありますがどれも相当な時間がかかります。また、UPC制度自体が廃止になる可能性もあります。どの選択肢で進められるかは政治的事情が強く影響するため今の時点では不明確です。

今考慮する事:イギリスを除くUPC制度でもUPCを使用する価値があるか検討する。これは特許ベースの分析が必要とされるかもしれません。

SPC (Supplementary Protection Certificate)

SPCは欧州で製薬・農薬などを保護する(SPC取得要件を満たす)特許の期間延長の権利であり、EU全体ではなくEU各国それぞれにおいて得られます。但し、この特許期間延長制度はEUの規則によって定められているので離脱後は適用しません。イギリスで有効な既存のSPCが離脱後も維持出来る様に移行措置が定められると思われます。又、離脱後も引き続きイギリスでSPC(少なくとも現在のSPCに等しい権利)が得られる様イギリス政府が新たな規定を導入すると予想できます。

欧州連合商標権 (EUTM)・登録共同体意匠 (RCD, Registered Community Design Rights)

離脱後、EUTM・RCDの保護領域はおそらくイギリスを含みません。既存のEUTM・RCDは離脱後も引き続きイギリスのカバーを維持出来る様に移行措置が定められると思われます。この経過規定の内容(優先順位等の条件は同じなのか、費用がいるのか、イギリスの知財事務所(UKIPO)に出す手続きの形態、手続きの所要時間)は現在明らかではありません。  

今考慮する事:これからEUTM・RCDを出願する必要があってイギリスでの保護も必要な場合は移行措置の条件が不確かな為、その出願の際に並行してイギリスの商標権の出願をする事をお勧めします。また、こうする事によって、離脱後直ちにイギリスでの権利行使の態勢がとれるという利点もあります。  

共同体植物品種権(CPVR)

EUTM・RCDと同様。ただし、イギリスでの出願はUKIPOではなくUKの植物品種権事務所が扱う。

著作権

著作権自体(データベース権を除く)はEU法に基づかないが、著作権の使用に関してはEU法が影響する場合がある。たとえばEUの “単一市場” をコンテンツやソフトなどにも適用させる目的でEU委員会が ”Digital Single Market”という新たな取り組みを立ち上げているが、イギリスが加わるかは不確かである。

企業秘密の保護

他のEU加盟国に比べ、イギリスでは企業秘密が強く保護されています。今まで、EUの各国がそれぞれの法律により企業秘密を保護してきましたが国によっては不十分なケースがあった為EU指令(2016/943)により最低限の保護標準が今年7月5日に導入されました。EU加盟国はこの指令を2年以内に施行しなければ成りません。

このEU指令をイギリスが施行するか否かは不確かですが、この指令は最低標準を定めるもので、イギリスの保護システムが現在でもその標準を上まっている為EU指令の影響はあまりないものだと予想されます。   



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