本記事は、英語で執筆され、日本語に翻訳されたものです。翻訳にあたり、表現やニュアンス等に細かな差異が生じている可能性がございます。本記事の原文は、こちらからご覧ください。
米国外で訴訟に関わる企業は、28 U.S.C. §1782(合衆国法典第28編第1782条)に規定される米国の重要なディスカバリーツールを利用することができるが、このツールはしばしば見落とされてしまっている。しかしながら、最近では、米国のディスカバリーを活用した強力なプロセスとして国際訴訟で利用されるようになってきた。この利用は、連邦最高裁判所によって承認されており、本質的にすべての「利害関係者」が、米国のディスカバリーを利用して外国の法廷で使用することができるとされている。
司法及び司法手続きに関する28 U.S.C. §1782は、知的財産に限定されたものではないが、米国外の知的財産紛争において当事者が証拠を収集するのが困難な場合、かかる紛争を効果的に支援しうる。たとえば、次の2つの事例を考えてみよう。
- • 欧州特許庁(EPO)の異議申立て手続きの当事者は、異議申立て手続きに関する問題について、ディスカバリーにより証拠を集める機会をほとんど得ることができない。代わりに、各当事者が利用できる証拠は、EPOがその裁量により関連すると判断した証拠に限定される。
- • 中国は、知的財産紛争に関して重要な法域になりつつあるが、正式な敵対的ディスカバリーの制度がほとんど存在しないため、ディスカバリーは厳しく制限される可能性がある。中国の訴訟制度は、当事者が自らの事件に関連するとみなす文書を提出することを単に規定するのみである。もし第三者又は相手方側からの証拠又は情報が必要となった場合、かかる証拠を求める当事者は、通常、民間調査員を雇うなどして非公式なディスカバリーを実施している。
上記のいずれの事例においても、ディスカバリーは、どちらかの当事者に役立つことになるだろう。もし必要な情報が米国内に存在することが判明した場合、米国及び外国の法廷におけるディスカバリーの違いは大きく、紛争解決の糸口にさえなりうるものであるから、かかる情報は取得するべきであろう。28 U.S.C. §1782の要件及び法体系にうまく対処することで、他の方法では入手できない情報を取得できれば、外国の訴訟で良い結果を得るための大きな利点となりうる。
I. 法定要件
「外国及び国際法廷並びにかかる法廷における訴訟当事者への支援」と題される§1782には、当事者がディスカバリーを利用する前に満たすべき3つの基本的な法定要件が記載されている:
- ディスカバリーの申請の対象者は、かかる申請が行われた司法地区において「居住」しているか、又は「発見」されなければならない;
- ディスカバリーが求める証拠は、人の「証言若しくは陳述」又は「文書若しくはその他のもの」であるかどうかにかかわらず、「外国又は国際法廷での訴訟における使用のため」でなければならない;
- 申請は、法廷又は「利害関係者」により行われる。
これらの要件をそれぞれ見てみよう。
1. 地区:ディスカバリーの対象となった「人」(つまり、§1782に基づく申請の対象者)は、個人か法人かに関係なく、§1782に基づく申請が行われた地区において「居住」しているか、又は「発見」されなければならない。これは、個人又は単一の事業体に適用される場合には単純な要件であるが、複数の対象者がいて、かかる対象者が同じ地区に居住しているわけではないような場合には、ディスカバリーを申請できる一つの法廷を見つけだすことは非常に難しくなる場合がある。しかしながら、法令の文言及び裁判所による法令の解釈により、この要件は、多くの場合、満たすことができる。
特定の地区で法人が「発見」されるためには、§1782における申請人は、かかる法人がかかる地区に「継続的かつ体系的に」所属していることを理由として、かかる地区の法廷が適切であることを証明する必要がある。これは、例えば対象の法人が「(かかる地区に)事務所を有している」ことを示すことで確立できる。あるいは、対象者が国内の訴訟などにおいて地方裁判所の対人管轄権の対象となる場合にも、この法的要件は満たされる。この広範な解釈により、§1782における申請人は、この要件を安易に満たすことができる。
2. 法廷:§1782の2番目の要件は、求められているディスカバリーが「外国又は国際法廷での訴訟」で使用されることを要求している。Intel事件における最高裁判所の判決によれば、この要件を満たすためには、外国の訴訟が、裁判所で再審可能な判決に至るものでなければならない。国際知的財産紛争においては、「外国又は国際法廷での訴訟」が最終的な行政処分を行う権限を与えられた行政機関により行われるものであり、かかる処分が法廷で再審可能な場合であったとしても、この要件は通常満たされる。
3. 利害関係者:§1782の最後の要件は、「司法的な支援の取得に合理的な利益を有する」者を含むとする、広い解釈がなされている。前述のように、法律の文言及び当該要件を広く解釈しようとする裁判所の意欲により、申請人が利害関係者であることを証明することはそれほど難しくはない。
ただ、これらの要件が単に満たされたとしても、米国の裁判所によるディスカバリー及び司法的な支援の命令が保証されるわけではなく、これらの法定要件を満たすことは、地方裁判所がそのような支援を提供することを可能にするだけに過ぎない。§1782に基づく申請がこれらの要件を満たしていると実証された場合、地方裁判所は、最高裁判所によるIntel事件の判決により設定された裁量的要因を考慮する必要がある。
II. Intel要因
本稿の主題に関する重要な最高裁判所の判決が、Intel事件である。この事件で、最高裁判所は、「外国の裁判所で使用するための証拠の収集に対して、連邦裁判所の援助を提供する」手段を§1782が与えることを議会が意図していたと認めている。すなわち、最高裁判所は、「礼譲及び同等性に関する懸念は、地方裁判所による裁量権行使において重要な試金石となる可能性があるが、外国のディスカバリーに一般的に適用される規則を§1782の文言中に挿入することまで許すものではない」ことを明らかにし、指針として、援助の決定を下す際に裁判所が考慮しなければならないいくつかの要因を設定した:
- ディスカバリーの対象者が外国の訴訟手続の参加者であるか;
- 外国の法廷の性質、外国で進行中の訴訟の特性及び米国連邦裁判所による司法的な支援に対する外国政府又は裁判所若しくは機関の受容性;
- 申請が、外国又は米国の証拠収集にかかる制限又はその他の政策を回避しようとする試みを隠蔽するものではないか;
- 申請が、過度に強要的又は負担になるものではないか。
第一の要因 – 対象者は参加者か?
対象者が外国の訴訟手続の参加者である場合、「外国の法廷は出席者への管轄権を持ち、証拠を提出するよう命じることができるため、§1782(a)に基づく援助の必要性は一般に明らかではない」。一方、対象者が参加者ではなく、外国の訴訟手続が対象者に対する権限を持たない場合には、米国裁判所は、かかる非参加の対象者が「外国の法廷の管轄外にある可能性があることを認識している。すなわち、かかる対象者の証拠は、§1782(a)に基づく援助がなければ入手できない可能性がある」。つまり、言い換えれば、§1782における申請人がすでに外国の法廷の権限の対象となっている場合、それは、§1782に基づく申請を妨げることになる。
第二の要因 – 外国管轄は受容的か?
2番目のIntel要因は、§1782の目的を説明した上院報告書に基づいている:
裁判所は、その裁量権を行使する際、要求の発出元となる国の政府の性質及び姿勢並びにその国での訴訟手続の特性又は国際法廷での手続の場合にはかかる法廷の性質及びその訴訟手続の特性を考慮に入れることができる。
最高裁判所は、たとえ§1782に基づく申請により求められたディスカバリーが外国の訴訟手続きにおいて認められない場合であっても、この「ディスカバリーの可能性」の要件は、地方裁判所がその管轄権を認可し、§1782に基づく申請を許可すること自体を妨げるものではないと判示した。しかし、裁判所の裁量に何ら制限はないというわけではなく、外国又は国際法廷が、§1782の申請に基づいて求められた証拠を認めるかどうかという問題に明示的に対処し、かかるディスカバリーは認められないと定めている場合には、当該要因により、裁判所は§1782に基づく申請を拒否しなければならない。
3 番目の要因 – 不適切な回避?
国際礼譲の促進のため、第三の要因は、申請人が積極的に「外国の証拠収集に対する制限を回避」しようとしているかどうかを検討することを要求している。裁判所は、さまざまな要素を用いてこの事実の調査を行う。たとえば、裁判所は、申請人が単に外国又は国際法廷での「不利な決定を回避又は阻止」しようとしているだけであると判断した場合には、申請を拒否している。申請人が不利な決定を避けようとしているという証拠がない場合、裁判所は、通常、外国の法廷のディスカバリーの手続きを調べ、ディスカバリーに何らかの制限が存在するかどうかを判断する。もし何も存在しない場合、申請の許可には有利な要因となる。
第4の要因 – ディスカバリーの比例?
前述のように、§1782は、米国連邦民事訴訟規則に基づく利用可能なディスカバリーツールを申請人に提供している。そのため、申請人は、これらの規則に基づくディスカバリーを利用するための要件を遵守する必要があり、その要件にはディスカバリーが「事件のニーズに比例する」必要があることも含まれている。§1782に基づく申請が、事件に対して均整のとれたディスカバリーでは無い場合でも、裁判所は、過度に強要的又は負担の大きいディスカバリーの要求を修正又は拒否する権限を行使し、申請人にディスカバリーの申請の修正を求めることができる。
III. 結論
§1782は、国際的な紛争に関与する訴訟当事者にとって強力なツールであり、米国連邦民事訴訟規則の権限を行使して米国でのディスカバリーを利用するという選択肢を当事者に提供している。米国企業及び国際企業の両方が、かかる法律及び外国の訴訟に対する潜在的な影響に精通するにしたがい、当事者にとっては、かかる法律上の手続き及び米国の裁判所における現時点での取扱いに慣れておくことが益々有益になっている。さらに、最高裁判所は、Intel事件において、地方裁判所が§1782に基づく申請を許可するかどうかを決定する際に幅広い裁量権を有することを明らかにしており、訴訟当事者は、申請人又は§1782に基づく申請の潜在的な対象者として、かかる法律及びその意味を認識しておくべきであろう。